AGAは、年齢や職業を問わず、あらゆる男性に起こりうる脱毛症です。それは、日々の厳しいトレーニングに励むアスリートやスポーツマンも例外ではありません。しかし、彼らがAGA治療を受けようとする際には、一般の人々とは異なる、特殊で深刻なトラブルに直面する可能性があります。それが「ドーピング」の問題です。自身の競技人生を左右しかねないこの落とし穴について、正しい知識を持っておくことは極めて重要です。 問題となるのは、AGA治療薬として処方される内服薬、特に「フィナステリド」と「デュタステリド」です。これらの薬は、薄毛の原因となる男性ホルモンDHTの生成を抑制する働きがありますが、この作用が、筋肉増強剤などの禁止薬物の使用を隠蔽する「マスキング剤」として利用される可能性があるとされています。そのため、世界アンチ・ドーピング機関(WADA)の規定では、これらの薬剤は競技会によっては禁止物質に指定されているのです。 もし、ドーピング検査の対象となるアスリートが、この事実を知らずにAGA治療のためにこれらの内服薬を服用していた場合、意図せずしてドーピング違反と判定されてしまうリスクがあります。その結果、大会への出場停止や記録の抹消といった、キャリアを揺るがすほどの重い処分を受けることになりかねません。これは、単なる知識不足では済まされない、取り返しのつかないトラブルです。 では、アスリートは薄毛の悩みを諦めるしかないのでしょうか。答えはノーです。まず、自身が参加する競技のドーピング規定を正確に確認することが第一です。そして、AGA治療を希望する場合は、必ず医師に自分がアスリートであり、ドーピング検査の対象であることを申告してください。医師と相談の上、内服薬ではなく、ドーピング規定に抵触しない「ミノキシジル外用薬(塗り薬)」による治療を選択するという道があります。ミノキシジル外用薬は、頭皮の血行を促進することで発毛を促す薬であり、ホルモンに作用するものではないため、ドーピング上の問題はありません。 薄毛の悩みは、アスリートのパフォーマンスやメンタルにも影響を与えかねない深刻な問題です。しかし、その解決を急ぐあまり、安易に内服薬に手を出してしまうと、築き上げてきたキャリアそのものを失うという最悪の事態を招きます。必ず専門医と、そして所属する競技団体と連携を取りながら、安全かつ公正な方法で治療を進めることが、真のスポーツマンシップと言えるでしょう。
AGA治療とドーピングスポーツマンの陥る罠