六十代になると、女性でも薄毛の悩みが増えてきます。皮膚科医の立場から、その原因と、シャンプーが果たせる役割、そして注意点についてお話しします。六十代女性の薄毛の主な原因としては、加齢による女性ホルモンの減少、頭皮の血行不良、毛周期（ヘアサイクル）の乱れ、そして長年の紫外線ダメージの蓄積などが挙げられます。これにより、髪の毛が細くなったり、成長期が短くなって抜け毛が増えたり、全体的にボリュームがダウンする「びまん性脱毛症」が多く見られます。また、まれに甲状腺疾患などの病気が隠れている場合もあります。では、シャンプーは薄毛改善にどこまで貢献できるのでしょうか。シャンプーの最も重要な役割は、頭皮の汚れや余分な皮脂を適切に洗い流し、頭皮環境を清潔に保つことです。毛穴の詰まりや炎症を防ぎ、健やかな髪が育つための土台を整えるという意味で、シャンプー選びと正しい洗髪方法は非常に重要です。特に六十代は頭皮が乾燥しやすいため、洗浄力がマイルドで保湿成分が配合された、頭皮に優しいシャンプーを選ぶことが基本となります。しかし、注意していただきたいのは、シャンプーはあくまで化粧品あるいは医薬部外品であり、それ自体に「発毛」効果があるわけではないということです。「このシャンプーを使えば髪が生える」というものではありません。育毛成分や血行促進成分が配合されているシャンプーもありますが、その効果は限定的であり、頭皮環境を整えるサポート役と考えるのが適切です。もし、抜け毛が急に増えた、地肌が明らかに透けて見える範囲が広がったなど、薄毛の進行が著しい場合や、強いかゆみや炎症がある場合は、自己判断せずに皮膚科を受診してください。医師は診察や検査によって原因を特定し、必要であれば、ミノキシジル外用薬などの医学的治療や、生活習慣の指導を行います。シャンプーは大切な基礎ケアですが、それだけで解決しない悩みがあることも理解しておくことが大切です。