薄毛治療を始めるとき、誰もが「フサフサになりたい」「かつてのボリュームを取り戻したい」という大きな夢を抱きます。しかし、フィナステリド治療において、一年後のゴール設定をどこに置くかは非常に重要です。医師や経験者が口を揃えて言うのは、「現状維持できれば大成功」というリアルな現実です。なぜ現状維持が成功と言えるのか、そして写真で見るビフォーアフターの世界はどうなっているのか、過度な期待で失望しないための真実をお伝えします。AGA(男性型脱毛症)は進行性の疾患です。もし何もしなければ、一年後には確実に今よりも薄くなり、生え際は後退し、頭頂部の地肌は広がっています。坂道を転がり落ちるボールのようなものです。フィナステリドを服用するということは、この転がり落ちるボールを止める、つまり「進行をストップさせる」ことに最大の意義があります。一年後に鏡を見て「変わっていないな」と感じたとしても、それは「薄くならずに済んだ」という輝かしい勝利なのです。マイナスになるはずだった未来をプラマイゼロにした、その価値は計り知れません。実際のビフォーアフター写真を見ると、その効果はより明確になります。多くの症例において、劇的に髪が増えて別人のようになるケースは稀です。しかし、細部をよく観察すると確かな変化が見て取れます。例えば、つむじ周辺の地肌の透け具合が「なんとなく目立たなくなった」、一本一本の髪が「太く黒くなった」、生え際の産毛が「少し濃くなった」といった変化です。全体としての印象は「変わらない」ように見えても、髪の質(コシやハリ)が向上していることで、セットがしやすくなったり、雨に濡れた時の悲惨さが軽減されたりといった、生活上のメリットを実感している人は非常に多いです。もちろん、中には著しい発毛効果を見せる「著効例」もありますが、それは全体の数%に過ぎません。フィナステリド単体での治療において、日本皮膚科学会のガイドラインでも「軽度改善」以上が見られるのは約五八%とされています。残りの約四〇%は「不変(現状維持)」です。しかし、この「不変」こそが、AGA治療の第一関門突破を意味します。まずは進行を止めなければ、髪を増やす次のステップ(ミノキシジル治療や植毛など)に進むこともできないからです。これから治療を始める人は、定期的に同じ条件(照明、角度、髪の長さ)で頭部の写真を撮っておくことを強くお勧めします。毎日の鏡では気づかない微細な変化も、半年前の写真と比べれば一目瞭然です。「変わっていない」と落ち込むのではなく、「守り切った」と自分を褒めてあげてください。そして、もし「もっと増やしたい」という欲が出てきたら、それは次の治療ステージへ進む合図です。まずは一年間、現状維持という偉大な成果を目指して、地道な服用を続けていきましょう。