十分な睡眠をとった翌朝は、頭がすっきりとし、体も軽く感じられます。一方で、徹夜明けや寝不足の日は、体が重くだるく、集中力も散漫になりがちです。この心身の状態をコントロールしているのが、「自律神経」です。そして、この自律神経のバランスが、実は髪の健康、特に頭皮の血流と密接に関わっているのです。自律神経には、体を活動的にする「交感神経(アクセル)」と、体をリラックスさせる「副交感神経(ブレーキ)」の二種類があります。日中は交感神経が優位になって活動し、夜になって眠りにつくと副交感神経が優位になって心身を休息・修復させる。この二つの神経が、シーソーのようにバランスを取りながら、私たちの体の機能を24時間体制で調整しています。しかし、慢性的な睡眠不足に陥ると、この絶妙なバランスが崩れてしまいます。体が十分に休息できないため、常に緊張・興奮状態を司る交感神経が優位なままになってしまうのです。そして、ここからが髪にとっての問題です。交感神経が優位になると、体は戦闘モードに入り、血管を収縮させて血圧を上昇させます。これは、生命維持に重要な脳や心臓に血液を集中させるための反応ですが、その一方で、生命維持の優先順位が低い、体の末端部分への血流は滞ってしまいます。そして、その「末端部分」の代表格が、まさに「頭皮」なのです。頭皮に無数に張り巡らされた毛細血管が収縮し、血行が悪化すると、髪の成長に不可欠な栄養素や酸素が、毛根にある毛母細胞まで十分に届けられなくなります。どんなに栄養バランスの取れた食事をしても、それを運ぶための「道路」である血管が閉ざされていては、髪は栄養失調状態に陥ってしまいます。その結果、髪は細く弱々しくなり、ハリやコシを失い、やがては成長しきれずに抜け落ちてしまうのです。睡眠不足は、いわば頭皮の血流を悪化させる「内部からの締め付け」のようなものです。リラックスして質の良い睡眠をとり、副交感神経を優位にさせて血管を広げ、頭皮の血の巡りを良くしてあげること。それが、髪が育つための豊かな土壌を取り戻すための、重要な一歩となります。