AGA治療を続け、失われた髪が戻ってきた喜びを実感している人の心に、ふとよぎる一つの不安があります。それは、「いつかこの薬が効かなくなるのではないか」という、いわゆる「耐性」に関するトラブルです。せっかく取り戻した髪が、また失われてしまうかもしれないという恐怖は、治療が順調であるほど大きな影となって心にのしかかります。この問題は、AGA治療が長期にわたる継続的なものであるがゆえに生じる、特有の精神的な負担と言えるでしょう。 まず結論から言うと、現在AGA治療で主に使用されているフィナステリドやデュタステリドといった内服薬に対して、薬物耐性が生じるという医学的なエビデンスは報告されていません。風邪薬や抗生物質のように、繰り返し使用することで効果が薄れていくという性質の薬ではないのです。したがって、理論上は、服用を続けている限りその効果は持続すると考えられています。 ではなぜ、「薬が効かなくなった」と感じる人がいるのでしょうか。その原因の多くは、薬の耐性ではなく、AGAそのものの自然な進行にあります。AGAは進行性の脱毛症であり、年齢とともにその進行力は強まっていく傾向があります。治療薬は、その進行を「抑制」している状態です。つまり、薬の効果とAGAの進行力が拮抗している状態が保たれているのです。しかし、加齢などによってAGAの進行力が薬の抑制力を上回ってしまった場合、現状維持が難しくなり、再び薄毛が進行しているように感じられることがあります。これが、「耐性ができた」と誤解される主なメカニズムです。 このトラブルに対処するためには、まず自己判断で「効かなくなった」と決めつけ、治療を中断しないことが最も重要です。治療をやめてしまえば、抑制されていたAGAの進行は一気に加速し、状況はさらに悪化してしまいます。現状維持が難しくなってきたと感じたら、すぐに主治医に相談しましょう。医師の判断により、より作用の強い薬に変更したり、ミノキシジル外用薬などの他の治療法を組み合わせたりすることで、再び進行を食い止められる可能性は十分にあります。AGA治療は、常に進行し続ける症状と向き合う、終わりのないマラソンのようなものです。不安に駆られるのではなく、信頼できる医師と二人三脚で、その時々の状況に応じた最適な戦略を立てていくことが求められるのです。
AGA治療薬の耐性という終わらない不安